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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)163号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人三名辯護人中川十一郎上告趣意第一點について。

檢察廳法第三條は、「檢察官は、檢事総長、次長檢事、檢事長、檢事及び副檢事とする」と規定している。そしてまた、同法全體の構成から言っても、副檢事が、檢察官であり、その一類別であることは、まことに明白である。檢察官は、すべてその本来の職務として、刑事について公訴を行う權限のあることは、同法第四條の定めているところであって、副檢事であると檢事であるとによって差異はない。ただその職務管轄については、原則として檢察官は、その属する檢察廳の對應する裁判所の管轄區域内において、その裁判所の管轄に属する事項について公訴權を行使する(第五條)。そして「副檢事は區檢察廳の檢察官の職のみにこれを補するものとする」(第一六條第二項)と定められているから、副檢事はその属する區檢察廳の對應する簡易裁判所(第二條)の管轄區域内において、その裁判所の管轄に属する事項について公訴權を行使することとなるわけである。

しかしながら、かかる裁判所との對應關係は、原則として通常の場合に關するものであって、同法又は他の法令に特別の定ある場合には固より種々の例外を生ずることが、すでに予め想定されているのである(第五條参照)。そこで、同法第一二條は、かかる例外の場合として、「檢事総長、檢事長又は檢事正は、その指揮監督する檢察官の事務を、自ら取り扱い、又はその指揮監督する他の檢察官に取り扱わせることができる」旨を規定している。思うにこれは、檢察官同一體の原則の下に、機に臨み變に應ずる幅と融通性を與えたものである。所論の檢察廳事務章程第一三條は、さらにこの趣旨を具體化する意味において、「地方檢察廳の檢察官に差支えがあるときは、檢事正は、その廳の檢察官の事務を、随時その廳の所在地の區檢察官に取り扱わせることができる」と定めたものである。それ故、檢事正は、地方檢察廳の檢察官の事務を、随時當該地方檢察廳の所在地の區檢察廳の檢察官(副檢事たると檢事たるの區別を問うことなく)に取り扱わせることができるものと解すべきを相當とし、何等疑義を挟む餘地はないと言うべきである。又副檢事は、區檢察廳の檢察官の職のみに補せられるのであるが(第一六條第二項)、前記第一二條の場合においては、例外として地方檢察廳の檢察官の事務をも取り扱うことを得るものと言わなければならない。それ故、本件において區檢察廳山本副檢事が、横浜地方檢察廳横須賀支部檢事事務取扱檢察官副檢事としてなした本件公訴提起は、有効であると論結すべきものである。されば、これが無効を前提とする論旨は、理由なきものとして採用することができない。(その他の判決理由は省略する。)

よって舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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